IT契約について

はじめに

                    

IT企業法務とは

 
 これまでいくつかのIT関連企業に携わってきて、もっとも痛感したことは、多くの企業は経営者や法務担当も含めて、あまり法律規制を意識していないことです。
 ITに関するビジネスは今日において、もはや必要不可欠なものとなっているものの、ITに関する各種法律を理解している社員は、ほぼ存在せず、弁護士や公認会計士といった専門家でさえ、深く精通したプロというのは意外と少ないのです。
 例えば、システム開発会社がシステム開発を請け負う場合、不正競争防止法や下請法や著作権法などといった、さまざまな法律を考慮した上で、契約条件を考える必要があります。また、委託先からビジネスのノウハウが流出しない防止策や、システム子会社を通じて行うベンダーへのシステム開発委託について、支払期日を決める必要もあるし、基本的な検収の取り決めを定めなければ、後々トラブルが発生することも多いのです。
 もちろん通常の請負契約のように、「民法」や「商法」などの知識も必要なのは言うまでもありません。「トラブルを回避するための契約の方法」、「双方納得がいく条件で、かつ自社の利益を守ることができる著作権契約」、「機密情報漏洩、顧客データベース管理に関わる個人情報保護の取り扱い」など本サイトより、少しでも、IT企業関係者に有益な情報を発信していきたいと思っております。
                    

IT企業に必要な契約とは

 
 企業が営業活動をしていくなかで、他の企業や一般消費者との間で「モノ」を得たり、渡したりする場面は非常に多くあります。その中で、もっとも多いものは企業自身の意思に基づいて「モノ」を売買するか、あるいは交換するケースです。このような企業の意思によって他者との間で「モノ」の移転を発生させる方法として、広く用いられる重要なものが契約です。

 そして、IT企業の場合、自社が提供する「モノ」は目に見えないものが多く、通常の物販業などよりも複雑な契約形態となりがちです。例えば、ソフトウェアの売買を行う場合、確かにパッケージされたCD-ROMなどを他者に渡します。
 しかし、このパッケージやCD-ROMあるいは添付されたマニュアル自体にそれほど大きな価値はなく、契約の主要目的とはなり得ません。
 また、通常の契約を交わしたとしても「モノ」の移転、すなわち所有権の移転が行われるのはあくまでCD-ROMやマニュアルといった目に見える有体物に限定されるので、本来の目的達成すら叶わないのです。

 それでは、本来の目的とは何かですが、この場合、売り手が売りたいものは目に見えない無体物であるソフトウェアです。そして買い手側もこの目に見えない無体物のソフトウェアの所有権(のようなもの)を確実に自分のものとしたいと思っています。
 このソフトウェアの所有権(のようなもの)をどのように概念化するかは、なかなか困難なのですが、現行法上では民法、著作権法、不正競争防止法、場合によっては特許法などによって定義が成されております。

 ソフトウェアの例をとっても、このように複雑な事情がありますが、IT企業はこのような「ソフトウェアの売買契約」以外にも「システム保守契約」「情報処理の委託契約」「サーバーレンタル契約」「オンラインサービス契約」などといった無体物の商品を提供するために、一般的な契約に関する法的知識はもちろん、それぞれの分野に関連する法的知識も踏まえながら、それぞれの事情に合致した契約を交わしていく必要があります。
                    

契約書を交わさない場合

 
 上記では、IT企業に必要な契約について解説しましたが、もし、IT企業が目に見えない無体物を提供する際、明確な契約書を交わしていなかった場面で、後々に問題が発生すれば解決策としてどのような法律的判断基準が考えられるでしょうか。

 この場合はまず、「(1)商法の規定に従う」ことになりますが、商法ではIT企業に深く関わる規定は見当たらないので、続いて「(2)IT業界の商慣習に従う」ことになります。これは一般的に、業界によってスタンダードとなるべき価値観が存在すると考えられているからです。しかし、確固とした商慣習が認められない場合は「(3)著作権法、特許法などの諸法令に従う」ことになり、最後に「(4)民法に従う」こととなります。

 しかし、これらだけでは当事者の本当の目的を達成することは難しいと思いませんか?なぜならば、現行の法律は日々進歩するIT業界の事情に追いついているとはいえないからです。
 このように書きますと「(2)にIT業界の商慣習に従うとあるじゃないか」と言われてしまいそうですが、これはあまりに判断基準が曖昧であり、取引時にそれぞれの認識の違いなどから、余計に問題がこじれる可能性が高いのです(そもそもIT業界はその歴史が短いために商慣習が築かれているとはいえないかもしれません)。解決すら困難となってしまえば、最終的に裁判所にその判断を委ねることにもなってしまうでしょう。

 ここで重要なのは現行の私法制度にいわれる「私的自治の原則」というものです。

 これは簡単に言ってしまえば、先に触れた法律的な判断基準に対して「契約を交わせば、すべてに優先することができる」というものです。
 この原則によれば「個人、法人問わず、それぞれの責任において互いの間に私法上の法律関係を自由に決定し、規律することが可能」とされ、契約を締結することで、問題が発生した場合も素早い解決が可能となります。
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